世界七大陸最高峰は世界最高峰のエヴェレストを筆頭にアコンカグア、マッキンリー、キリマンジェロと世界の名峰が並びます。この7つのピークに立つことは冒険指向の強い登山家の間で大きな目標になっています。
日本で一般的に知られるようになったのは、99年に野口健さんが25歳で完登し世界最年少記録(当時)を更新してからでしょう。ちなみに、女性の世界初は92年に完登した田部井淳子さんです。
富士山の高度3000mを超える高さになると酸素量はだいたい地上の2/3程度になります。5000mでおよそ半分。8000mを超えるエヴェレストは1/3になります。
人によって高山病の症状が出る高度は違います。同じ人でもその時その時の体調で高山病が出る高度も変わります。日本の山で圧倒的なスタミナを誇る人でも5000mをわずかに超えたエヴェレストのベースキャンプにたどりつけず涙を呑んで敗退するケースはよくあります。
高度を上げて酸素量が減ってくると人の肉体には様々な影響があります。まずは疲労。すぐに疲れてしまいます。次に頭痛。頭がズキズキと痛み吐き気がします。時には吐き食欲がなくなり肉体が食べ物を受け付けなくなります。ますます疲労が強くなり症状はさらに進みます。
次の段階では症状はさらに進みます。眼底出血が起こり、目が見えなくなります。肺水腫。肺に水泡ができて水がたまり呼吸をするたびにゴロゴロという音が聞こえるようになります。こうなってしまうと1秒でも早く酸素の濃い場所へ降りないと命に関わります。脳浮腫。幻覚や幻聴で現実との区別がつかなくなります。
目が覚めている時は意識的に呼吸を早くしているので酸素の摂取量も多いですが、眠ると呼吸の速度がいつもの速度に元に戻ってしまいます。そうなると酸素の摂取量が少なくなり苦しくなって夜中に何度も目を覚ますことになります。苦痛で目の上の空間を両手で搔きむしるようにして声を上げて目を開き荒い呼吸を繰り返す。まるで悪夢の中で首を絞められながら眠っているような気分。その不安と苦痛に誰もが暗いテントの中で耐えている。
昨日まで元気だった人が翌朝テントから起きてこない。声をかけても返事がない。
どうしたのかとテントの中を覗いてみるとシュラフの中で冷たくなって死んでいた。
こういうことが日常的なレベルでおきます。
1日に高度を上げるのは500m以内にします。
それも一旦700mか800mまで上に行き、その高度にしばらく滞在してから最終的に500mだけ高度を上げた地点まで下りそこにキャンプを張る。次にまた同様のことをしながらアップダウンを繰り返し徐々に高度に自分の体を慣らしてゆく。これがヒマラヤ登山の基本です。
7000mを超えたあたりから酸素も使います。
酸素ボンベを背負い、マスクをつけて濃い酸素を呼吸する。それでも効果はまちまちです。
重い酸素ボンベを背負うために使う体力と酸素ボンベによってもたらされる濃い酸素が呼吸を楽にしてくれる分が相殺されて結局同じだと考える人もいます。
どんなにうまく高度に順応できたとしても地上と同じコンディションで動けるという意味ではありません。人間が順応できる高度は人によって様々ですが6000mを少し超えたあたりだろうと言われてます。どれほどうまく高度順応できたとしてもその高度を超えるとただ何もせず眠っているだけでもどんどん体力を消耗してゆきます。この高度に長く滞在すると大量の脳細胞が死んでしまいます。生物にとって極限状況を日常的に体験することになります。
8000mを超えると一歩しを踏み出しては1分近くも喘ぎ次にまた一歩踏み出す。これを無限に繰り返す。
さらに気温は-40度。
風が吹けば体感気温はさらに下がります。
雪、雪崩。これほど過酷な場所は地球上にそう幾つもないでしょう。