現場判断

 

きちんと計画を立てたとしても山へ行けば計画通りにいかないこともあります。たとえ計画通りにいかなくても無事に下山できる場合がほとんどですが、リーダーは現場の状況を正確に把握し危機的な状況に陥いる前に最善策を見極め決断することが必要です。
前に私がリーダーで登った南アルプス・塩見岳を例に現場で判断するためのステップを紹介したいと思います。判断はまず、山行を実行するのか?中止するのか?かからはじまります。これには山行の目的が重要になります。
2014年10月11~13日の日程で南アルプスの塩見岳に行く予定でした。この週は大型で非常に強い台風19号が上陸して予想進路では3日目の13日に台風直撃という状況でした。かなり強い台風が直撃の予報なので実施するかしないかかなり迷いました。
もともとは所属する山岳会の新人教育でテント泊のいろはを教えるのが目的でした。テント泊を教えるだけなら中止してもよかったのですが、天気予報をみると2泊3日で最初の2日は天気が持つだろうと思いせっかくだから現場判断で撤退する経験もしてもらおうと思い実施しました。私の山仲間もこの3連休の山行を中止している人がほとんどでした。
最初に結論を言ってしまいますが2日目に山頂まであと1時間というところまで行って撤退しました。

決断するまでプロセス


① 事実を把握する 実際に起こっていることは何か?

どんなデータが手元にあるか?
実際に観察できることは何か?
今までの結果は?
人の意見や解釈ではなくまず事実に焦点を当てます。
今回の場合は
・台風が近づいてきている
・3日目は天気が悪くなる
・ラジオや観天望気をした感じ2日目の天気は問題ない
・悪天候の登山は危険
私は台風が近づいてる時に富士山と白山に登ったことがあるのですが、どちらも本気で怖い思いをしました。 ガスっていて周りが真っ白で2, 3m先がどうなっているかさえわからない。 風が強すぎて雨と地面の小石っも飛んできて呼吸するのも難しい。 雨も強すぎて雨具を着ていても一瞬でずぶ濡れ。 風と相まって体温がどんどん奪われます。 動いてないと震えが止まらないぐらいになります。
このときは私が盾になって先頭を歩き離れたら終わりだと思ったのでみんなでくっついて絶対に手を離すなと指示して安全地帯まで下りてきました。
安全が保障された環境下で一度経験しておくとどれほど恐ろしいものかがよくわかると思います。
メンバーをよ~く観察します。
息は切れていないか?きちんとついてこれているか?歩き方に違和感がないか? 声なき声にも耳を目を傾けて聴きます。目がいいことが大切です。
② 望む結果を明確にする
目的は何か?どんな結果を生み出さなければならないのか?を明確にします。
今回は新人教育だったのでテント泊と現場での判断について学ぶのが目的でした。
私がリーダーのときはピークハントを狙うより無事に帰ることが目的です。
③ 方法について考える
「富士山の頂上に至る道は何通りもある」ということわざがあります。 何かをするときそれを成し遂げる方法はひとつではなく選択肢は常に複数あります。 先入観に囚われることなく今の状況を冷静に分析し方法はいくつも考える必要があります。
・2日目すぐに下山する ・烏帽子(えぼし)岳に登って下山する
・予定通り登って、テン場で一泊。翌日に下山。
・リミットを決めて行ける所まで行って時間になったら強制的に下山する。
④ 長所と短所を検証し、最善の策を選ぶ
③で考えた方法のひとつひとつメリットとデメリットを考えます。 どの方法を選択すれば望んでいる結果が得られる可能性が最も高くなるのか?を考えます。
⑤ リスクを評価する
リスクが高すぎる選択肢もあります。 思い切った行動も必要ですがそれと同時にリスクも正しく評価し負えないリスクは避けましょう。
テント泊なので荷物が重い。 そして2泊3日の行程がはじめての人がいる中で気づかない疲労がたまっている可能性もありました。
そんな状況で暴風雨に巻き込まれたら事故の可能性が一気に高まります。
⑥ 他人の意見を聞き、案を改善し代替案を考える
自分の決断を信頼できるアドバイザーに意見を求めます。 傲慢にならないように自分の盲点を指摘してもらうことの大切さも意識しましょう。 リーダーは自信を持って大胆な決断をしますが、 すべてが計画通りにいかないということも認識する必要があります。 だから代替案も用意します。 「物事が計画通りに進まなかったらどうするか」をじっくり考えます。
食事中に明日からの予定について話し合いました。
今回はサブリーダーだけでなく新人教育なのでメンバー全員でどうするかを考えました。
⑦ 決断したら迷わず実行!
リスクは考えてます。みんなの意見も聞いてます。
事実に基づいて望む結果を生み出す可能性が最も高い方法も選択しています。 もうこれ以上することは何もありません。 迷いを捨てて自信をもって行動しましょう。
今回は2日目の天気は最後まで持つと判断しリミットを決めて行ける所まで行って時間になったら強制的に下山するを選択しました。
どうするか決めたら今度はその場で計画を作り直します。
15時までに駐車場に着くために何時になったら下山を開始して、テン場に到着、テントの撤収は何時まで、駐車場まで下山するまでの時間を計算します。
2日目は本当にすごくいい天気で絶好の登山日和でした。
南アルプスの雄大で魅力的な尾根がたくさん見えて印象的でした。
山頂の手前で後1時間という場所で時間になったので強制的に下山しました。
テントを撤収しているとき山頂から下りてきた人たちからもなんで登らなかったの?すごいよかったのに!
と嫌みを言われましたが、何を言われようが関係ありません。
リーダーの判断に納得がいかない面もあるとは思いますが、まず何より無事に帰ってくることができたのでそれでよしとします。